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Feb

社内システムにナビがつく? トヨタや三菱UFJも導入したSaaSがすごい

「誰でもマニュアルレスで複雑なシステムを活用できる」と語るテックタッチの井無田仲社長(SankeiBiz編集部)

プログラミングの知識がなくてもアプリケーションを構築できる「ノーコード」開発プラットフォームの需要が高まっている。あらゆる分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)の変革が進み、ITエンジニアの人材不足が叫ばれる中、専門知識がなくてもシステムをカスタマイズできるからだ。中でも、「デジタルデバイド」(情報格差)や作業ミスを解消する有力なツールとして、ソフトウェアの画面上に操作ガイドを表示し、ユーザーの操作をサポートするナビゲーションが注目されている。パソコンの画面に表示される「クリックしてください」といったガイドに従って操作することで、誰でも正しい情報を入力することができる■現場主導で「システムを使いやすく改良」「大企業の課題の一つに社員の高齢化があります。ベテラン社員はITリテラシーが高くないことも多く、企業が導入した新しいシステムを導入した際、慣れることに負担を感じてしまう。誰でもマニュアルレスで複雑なシステムを活用できるようなプラットフォームを開発しました」と語るのは、インターネット経由でソフトウェアを利用するSaaS(サース)企業「テックタッチ」(東京都千代田区)の井無田仲=いむた・なか=社長(41)だ。パソコンの画面に表示される「取引先名を入力してください」「クリックしてください」といったガイドに従って操作することで、誰でも正しい情報を入力することができる仕組みになっている。車でたとえれば、カーナビがついているようなものだ。こうしたシステム向けのナビの開発では、カーナビの地図が全国共通であるのとは異なり、企業のシステムは1つではないことがハードルになる。経費精算からコールセンターの入力画面までナビをする対象も千差万別だ。このため、これまでは社員向けの操作ガイドを作成する場合、専門の知識を持つITエンジニアが各社のシステムに合わせてナビシステムを開発する必要があった。だが、同社が開発した社名と同名のプラットフォーム「テックタッチ」は、ソースコードを1文字も書けない現場の人材でもナビ機能を追加できるのが特徴だ。ノーコードとはいえ、井無田社長は「現場主導でシステム開発に近いイメージで構築できる」と胸を張る。2019年からサービスの提供を開始し、すでにトヨタ自動車や三菱UFJ銀行、鹿島建設、代々木ゼミナールなどさまざま企業で導入が進む。■オペレーターの入力ミス100%削減携帯電話の販売などを手掛けるコネクシオ(同)のコンタクトセンターでは、テックタッチの導入でオペレーターによる入力ミスを100%削減することに成功したという。「画面上で操作を導いていき、誤ったオペレーションをしたとしても画面上で物理的に入力できないようになっていますから、必然的に入力ミスが起きないわけです」(井無田社長)。用字や用語が統一されていない「表記ゆれ」を防ぐこともできるという。例えば、「株式会社」と入力すべきところを、誤って「(株)」と入力してしまうと、「名寄せ」と呼ばれるデータの統一作業が必要になる。こうした表記ゆれは、半角英数字を使うか全角英数字を使うかなど枚挙にいとまがないが、あらかじめ入力方法をガイドしておけば、オペレーターによって入力内容がぶれる心配がない。また、入力項目によってガイドに表示される内容も自由に変えられ、次の操作が分からなくなったときにマウスで該当箇所にカーソルを重ねると注釈を表示する機能もあるという。企業が新しいシステムを導入したり更新したりする際は、こうした操作ガイドの作成のため、社内SE(システムエンジニア)などデジタル人材に業務が集中しがちだった。だが、ノーコード開発プラットフォームを使えば、プログラミングの知識のない営業統括部門や財務部門の担当者でも実装することが可能になるという。現場がある程度自由にカスタマイズやローカライズできるのも利点だろう。独立系ITコンサルティング・調査会社のアイ・ティ・アール(ITR、東京)によると、国内のローコード/ノーコード開発市場の2020年度の売上金額は515億8000万円で、前年度比24.3%増となった。市場に影響力のある上位ベンダーの売り上げが伸長し、市場を牽引しているという。ITRは「高品質でメンテナンスが容易なアプリケーションの開発が可能というメリットのほか、内製化による開発コストの大幅な削減にも寄与することから今後も導入が進む」と予想している。テックタッチのノーコード開発プラットフォームは、そうした需要を先取りしたサービスといえる。■金融業界出身の創業者「使いづらいシステム不満だった」「汎用性の高いシステムなので、今後は住民票の電子申請などの自治体のシステムや官公庁でも活用できるはずです。オペレーションやシステムが複雑な分野、いわゆる『現場』の多い店舗系やカーディーラーなどでもニーズが高まってくるのではないかと思っています」こう前を見据えるテックタッチの井無田社長だが、その経歴は異色だ。慶應義塾大学を卒業後、米コロンビア大で経営学修士(MBA)を取得。ドイツ証券や新生銀行で企業の資金調達やM&A(企業の合併・買収)についての助言に携わるなど、意外にも金融畑を歩んできた。その後、IT大手のユナイテッドに移り、米国子会社の代表も務めている。井無田社長は「金融機関出身ですが、大企業に所属していたとき非常に使いづらいシステムがあって不満に思っていました。ですが、いざIT業界に移ってみると、今度はユーザビリティ(使い勝手)の高いサービスを提供するのがいかに難しいか実感しました。作り手と使い手の間にできる溝を埋めたいと思い、テックタッチを創業しました」と振り返る。■SaaS使えない層にとって重要なナビ使い手に近い現場が主導してシステムを構築するためには、プログラミングコードというハードルを取り払う必要がある。そこでノーコードの開発プラットフォーム「テックタッチ」が誕生したというわけだ。井無田社長は力を込めてこう語る。「SaaSの流れは止められません。人事や営業部門、基幹システムも含めてあらゆるジャンルでSaaSの利用が加速度的に進んでいくと思っていて、カスタマイズの幅もさらに広がっていくはずです。だからこそ、まだSaaSが使えない層にガイダンスできるナビの存在が重要です。ITエンジニアではない現場の人たちがそういったものをノーコードで作ることができるテックタッチをさまざまな分野で活用してほしいと思っています」

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