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超小型PC「GPD Pocket 3」の“文房具”的な存在感を楽しむ

3月15日(火)13時30分 ITmedia PC USER

超小型PC「GPD Pocket 3」の“文房具”的な存在感を楽しむ

GPDの8型超小型PC「GPD Pocket 3」

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中国Shenzhen GPD Technologyの「GPD Pocket 3」は、8型ディスプレイを搭載した2in1 PCだ。2軸ヒンジのY軸(垂直軸側)でディスプレイを反時計方向に180度回転すれば、クラムシェルスタイルからスレートスタイルのタブレットに姿を変える。これは、先日レビューを掲載した中国One-Netbook Technologyの「One-Netbook A1 Pro」と共通する機構だ。国内ではGPD Direct(天空)やリンクスインターナショナル、ハイビーム秋葉原本店などで取り扱いがある。・リンクス、8型2in1ミニノートPC「GPD Pocket 3」の国内販売を発表・シリアルポート付きの“ワークマン”PC「One-Netbook A1 Pro」はどこまで“普通”に使えるか●着脱式のモジュール機構を採用したユニークな1台製品名的には「GPD Pocket 2」の後継だが、GPD Technologyとしては、従来の「GPD Pocket 2」や「GDP P2Max」、そして「GDP MicroPC」と、これまでに投入してきた非ゲーム向けラインアップをこれ1台で全て網羅できるモデルとして開発したと述べている。8型と超小型PCとしては大画面のディスプレイを搭載して、上位構成ではCPUにCore i7-1195G7を採用(下位モデルはPentium Silver N6000)するなど、処理能力を重視しているのはGDP P2 Max譲り(GPD P2 Maxのディスプレイサイズはひと回り大きい8.9型だが)で、インタフェースにUSBだけでなく、シリアルポート用のRS-232CやKVMモジュール(HDMI+USB端子)などと換装できるオプションも用意されるのがポイントだ。このあたりは、ワークマシンとして際立つ存在だったGPD MicroPCの流れを継承しているといえる(GPD Pocket 2、もしくはGPD Pocketシリーズの継承という意味では、P2 MaxとMicro PCの合流による発展的融合とも理解できる)。One-Netbook A1 Proと同じく、一般的な2in1 PCの用にディスプレイを360度開いてタブレットにする機構と比べて、タブレットスタイルにしたときにキーボード面を持つことがなく、本体を持ちやすい。また、ディスプレイをほぼ90度にしておかないと回転できないのも同様で、GPD Pocket 3もY軸が細いので無理やり回すと破損する恐れがある。とはいえ、GPD Technologyでは、10万回の連続操作試験をクリアしていると耐久性には問題がないとしている。ボディーの素材がアルミニウム合金で質感が高いのもOne-Netbook A1 Proと同様だ。●8型で1920×1200ピクセル表示のタッチ操作対応ディスプレイを搭載GPD Pocket 3の8型ディスプレイは、画面解像度が1920×1200ピクセルとGPD P2 Maxの8.9型ディスプレイの解像度2560×1600ピクセルほどではないにしても、ディスプレイサイズに比して解像度は高い。となると、やはり、文字が小さすぎて見えづらいのでは、という懸念がわいてくる。OSのWindows 10 Home(64bit)としてはズーム設定の推奨を200%にしているが、さすがにこれでは画面が狭苦しくなる。7型ディスプレイだったOne-Netbook A1 Proは100%設定だとフォントの表示サイズが小さすぎて常時使用は難しかった。しかし、GPD Pocket 3ではディスプレイサイズが8型と一回り大きいこともあってか、100%設定で2週間ほど使ってみた印象としてはフォントが小さくて目が痛くなるほどに疲れてしまう……ことはなかった。長時間、具体的には2〜3時間を超すあたりから文字を“読む”のが難しく感じることもあったが、それでもOne-Netbook A1 Proと比べると作業し続けられる時間は長かった。上記の評価も「主観的な感想」となってしまうので、ここでも参考までに拡大縮小設定を100〜200%に変えながらWebブラウザのEdgeでPC USERのレビュー記事本文で表示されるフォント1文字のサイズと、「メモ帳」の標準設定(フォント=MSゴシック、スタイル=標準、サイズ=12ポイント)で全画面表示時における1行当たりの文字数と表示行数をカウントしてみた(解像度、フォント、フォントサイズが同じなので1行文字数と行数はOne-Netbook A1 Proと変わらないが参考までに記載する)。それぞれの視力や使い勝手に応じて、最適なパターンを選んでほしい。続いて、キーボード回りをチェックしよう。●主要キーは大型で扱いやすいがキー配列は不規則な部分もキーボードのキーピッチは約16mmを確保している。キーストロークは実測で約1.2mmと通常のクラムシェルスタイルノートPCと比べると浅いが、実際にタイプしてみるとキーを押し込んだ感触がはっきりと認識できる。キートップは押し下げてもぐらつくことはなく、押し込んだ指の力をしっかりと支えてくれるので不安もない。フルサイズのキーボードと比べると確かにコンパクトで狭くはあるものの、タイピングが安定してできるので文章作成にも長時間使えた。また、アイソレーションタイプなので、隣接するキートップをタイプする運指でも指がすれることがない。8型ディスプレイ搭載ノートPCとしては使いやすいキーボードといえる。これまでの経験を踏まえた主観的感想としては、10型クラスのディスプレイを搭載した“サブノートPC”と同等と感じた。ただし、一部のキーは変則的なレイアウトになっている。特に日本語の文章入力で多用するカギカッコや長音といったキーが、通常の右端からファンクションキー段のさらに上に設けた最上段の中央から左寄りに配置されている。運指的には右手薬指の担当領域から左手もしくは右手人差し指をさらに伸ばした“拡張”領域に代わった。タイプするには「ぐぐっとな」的感じで意識しないとならず、慣れないうちは文章入力の流れが途切れてしまう。筆者の場合は「カギカッコと長音は右手で打つ」の認識を変更できず、右手人差し指を「さらにぐぐぐぐっっっとなっ」と伸ばしに伸ばしてタイプしていた。さらにもう1点気になったのが、句読点とカーソルキーの位置だ。句読点は通常のキーボードと同じ「Mキーの右隣り」にあるのだが、キーピッチがアルファベットキーと比べてやや狭く(実測で約14mm)なっているのに加えて、カーソルキーが他のキーと離れておらず、他のキー配列と同じ並びに配置されているため、特に句読点と左カーソル、もしくは、上カーソルを誤爆しやすかった。ポインティングデバイスとして、キーボードの右奥側にタッチパッドを備え、反対の左奥側に左右のクリックボタンを装備する。これは、両手で本体を持って左右の親指だけで操作することを想定したGPD MicroPCを継承したものだ。ただし、GPD MicroPCは本体の幅が約153mmで両手親指が全てのキートップをカバーできていたが、GPD Pocket 3の本体幅は約198mmあるので、キーボード中央で両手親指が触れるものの上下段のキートップをタイプするにはかなり無理な姿勢を強いることになる。キーボードをタイプしようと思うなら、机上に本体を置いてタイプするのが現実的だ。とはいえ、この場合でも、GPD Pocket 3のポインティングデバイスのレイアウトなら、手首をホームポジションに置いたまま左右の指を「ん!」と伸ばせばタッチパッドもクリックボタンも操作できる。指の動きとしては自然で扱いは容易だ。少なくともキーボードのスペースバー手前に配置した、光学式ポインティングデバイスよりは格段に扱いやすい。なお、もう少し指を延ばせばタッチパネルを組み込んだディスプレイに手が届いてダイレクトに目標をタップできる。こちらが手間少なくて簡単確実に思えるのだが、実際に試してみるとなかなか正確にタップできず誤爆することが多いのと、指を「んんんんん!」と思いっきり伸ばすためホームポジションから手首が離れて動き回るという意外と面倒なこともあって、評価作業中に気が付いたらタッチパッドを多用していたことを付け加えておきたい。●インタフェースは上位モデルと下位モデルで違いもGPD Pocket 3では、搭載するCPUとシステムメモリの容量、ストレージ接続バス規格、そして、インタフェースの構成が異なる上位モデルと下位モデルがある。上位モデルはCPUがCore i7-1195G7(4コア8スレッド、2.9GHz〜5.0GHz)、GPUはIntel Iris Xe Graphicsでシステムメモリが16GB(LPDDR4x-3733)、ストレージは1TB SSDを採用する。下位モデルはCPUがPentium Silver N6000(4コア4スレッド、1.1GHz〜3.3GHz)でGPUはIntel UHD Graphics、メモリが8GB(LPDDR4x-2933)、ストレージは512GB SSDを採用する。インタフェースは、2基のUSB 3.2 Gen 2 Type-Aと1基のUSB 3.2 Gen 1 Type-A(背面/着脱式のモジュール)、2.5GbE対応の有線LAN、3.5mmのヘッドセット/マイク、HDMI出力が共通で、上位モデルはThunderbolt 4を、下位モデルではUSB 3.2 Gen 2 Type-Cをそれぞれ備える。無線接続インタフェースは、上位モデルがWi-Fi 6Eの無線LANとBluetooth 5.2となるのに対し、下位モデルはWi-Fi 6の無線LANとBluetooth 5.0対応となる。最後に、ベンチマークテストで本製品の実力を見ていこう。●手堅いパフォーマンスで低発熱今回評価で用いたのは、Pentium Silver N6000を搭載する下位モデルだ。ここでは処理能力を確認するために、ベンチマークテストのCINEBENCH R23、PCMark 10、3DMark、CrystalDiskMark 8.0.4、そしてファイナルファンタジー XIV:漆黒のヴィランズ ベンチマークを実施した。テストスコアは下記の通りだ。さすがに、Coreプロセッサを採用したモデルに比べると明らかにスコアは低いが、同じ超小型PCでCore i7クラスを載せたモデルの静音モードで測定したスコアと比較すると、スコア自体は低いもののCore i7とPentiumといった“CPUの格差”程の違いではない。CINEBENCH R23のマルチコアで測定したスコアはかなり近い値になっている。また、下位モデルでもストレージの接続規格にPCI Express 3.0 x4を採用しているおかげで(上位モデルはNVMe 1.4対応のPCI Express 4.0 x4接続にも換装可能)、CrystalDiskMark 8.0.4 x64のスコアはCore i7搭載の超小型PCとそん色ない値だ。次に、使用中におけるボディー表面の温度を、3DMarkのNightRaidを実施しながらホームポジションとして指を置く機会が多い「F」キーと「J」キーのキートップ、両手親指が触れている機会が多い本体前面縁(具体的にはWindowsキーの下側とバックスラッシュキーの下側)、底面を非接触タイプの赤外線温度計で計測した。同時に、騒音計でファンの風切り音圧をそれぞれ測定している。通常モードでも41.8dBAと静かだが、静音モードに至っては暗騒音(36.4dBA)とほぼ変わらない。通常モードでは冷却ファンの回転数が可変になるため、状況によっては動作途中でファンの風切り音が大きくなり、それがかえってファンのうるささを意識させてしまう局面もあった。一方で、表面温度は全ての測定箇所で40度を下回り、熱さが不快と感じるようなことはなかった。最高でも36.2度と体温並みにとどまっている。本体も保持してタブレットスタイルで使う場面も搭載されるが、その場合でも本体が熱くて持てないというケースはほぼ発生しないだろう。●“文房具”としてハイブリッドワークでも活躍できる超小型PCGPD Pocket 3のボディーサイズは、約198(幅)×137(奥行き)×20(厚さ)mmと、B5ファイルサイズに収まっている。その一方で重量は公称値で約725g、実測で723gとモバイルPCの最軽量クラスに近い。となると、これまでの超小型PCが強みとしていた「軽量コンパクト」が成り立たなくなる。13.3型と見やすく高解像度の最新モバイルノートPCが存在する今、コンパクトだけの超小型PCに存在意義はあるのだろうか。デジタルトランスフォーメーション(DX)が進み、PCだけでほぼ全ての業務が完結するならば、使いやすい大画面のPCだけで済むだろう。しかし、まだまだ多くのケースではPCとともに書類や図面や資料を併用しながら作業を進める必要があるはずだ。そこでは、PCは情報収集と編集加工で必須であっても、業務の主役ではないことが多い。このような場合、PCは物理的な存在感としてはわき役であることが望ましい。GPD Pocket 3は、そんな「物理的にはわき役であってほしいPC」として、最適な“文房具”となる。そのタスクとして文章作成やドキュメント編集、情報検索、データブラウジングがメインであるなら、今回評価したPentium搭載の下位モデルで十分だし、重い演算処理が必要であるならばCore i7-1195G7を搭載した上位モデルがある。GPD Pocket 3は見た目以上に使える“現代の電卓”となるはずだ。価格は、評価モデルが8万7000円前後、上位モデルが14万7000円前後となっているので、懐具合に応じて検討するといいだろう。

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