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Jan

「娘の顔をした裸画像…」消えないフェイクポルノの被害を告白 「娘の顔をした裸画像が永遠に…」一生消えない“フェイクポルノ”の被害を告白

SNSに触れずに生活を送るのは不可避と言われる時代。顔写真だけなら大丈夫と思っていませんか? 顔写真をアップしたことで悲劇に見舞われた女の子とその家族を取材した。

【写真】『ワイドナショー』でフェイクポルノ被害を告白した、元NHKアナウンサーの神田愛花

「フェイクポルノの被害を受けた芸能人らは国内で約200人、公開されている動画は350本以上と言われています」

AI(人工知能)の顔認証技術を悪用して出演者の顔を女性芸能人にすり替えたアダルトビデオの偽動画を作成したとして、京都府警は2日、大分県の無職・野間口攻也容疑者(30)を逮捕した。府警によると、ディープフェイクポルノに関する逮捕は全国初。

同日、警視庁と千葉県警も兵庫県のシステムエンジニアの男(47)と熊本県の大学生の男(21)を同様の容疑で逮捕したと発表した。

これらは「ディープフェイクポルノ」などと呼ばれ、これまで多くの女性芸能人を苦しめてきた。一億総SNS時代となった現在、フェイクポルノは芸能人だけの問題ではない。何の落ち度もない一般女性ユーザーも被害にあっているのだ(※記事中ではアイコラなどの写真加工も「フェイクポルノ」と呼んでいます)。

●CASE1● ゆかりさん(18・仮名)友達と遊んでいる写真が加工されて……

「私の胸じゃないのに……。証明する方法は脱いで見せるしかありません。つまり、もう証明は不可能だということなんです」

ゆかりさんは、そう言うと泣き崩れた。差し出されたケータイ画面には、全裸で悩ましいポーズをとるゆかりさんの姿が1枚。男性の上に馬乗りになり性行為をしていると思わせる画像が1枚。ゆかりさんは、

「見るのも見せるのも嫌だけど」

と言いながら被害を訴えてくれた。もちろん、これはフェイクポルノ。ゆかりさんの顔だけが合成されたものだ。

ゆかりさんは都内の進学校に通う高校3年生。なぜ彼女は被害にあってしまったのだろうか。母・朋美さん(50代・仮名)が経緯を明かす。

「この全裸でポーズをとっている笑顔は、娘が2018年12月のインスタグラムに投稿した写真から抜かれました」

12月某日のゆかりさんのインスタグラムの投稿を見ると、全裸画像と同じ顔があった。ゆかりさんは色白で目鼻立ちのハッキリした美少女。柔らかく透き通るようなもち肌は写真越しでもわかる。

男性の上にまたがり喘いでいるように見える画像は友人数名との集合写真から抜き取られていた。実際はテーマパークに女子高生が数人で変顔をして楽しんでいる健康的なショットが性行為の最中の顔に変換されるなど誰が予想できるだろうか。

ゆかりさんはめったに自分の顔写真は投稿しないが、友達とディズニーやUSJに行った特別なお出かけのときだけ自分の顔を公開していた。このときの画像が抜き取られ、合成されてしまったのだ。

いつフェイクポルノの存在に気づいたのだろうか。

「恥ずかしい話ですが、息子(21)がアダルトサイトで見つけたようで直接、妹である娘に“お前こんなことしているのか!”と詰め寄ったことから発覚しました。娘は何が起きているのかわからない様子でリビングにいた私のもとに息子から見せられた画像片手にかけよってきました」

ゆかりさん親子はその日のうちに警察に被害届を出した。サイトをくまなく調べて管理者に削除要請も出した。

「アダルトサイトなんて見たことがないので、仕組みも理解できないし、いろんなサイトに飛んでしまって管理者にたどり着くのにも苦労しました。削除要請をしてそのサイトからは消えたけれど、誰が投稿したのかということは管理者もわからないというんです。素人のSNSから勝手に顔写真を抜き取って合成して商売している人がいるっていうんです」(朋美さん)

ゆかりさんの当時の年齢は17歳、『児童ポルノ』、『名誉毀損』など多くの犯罪を犯しているが、犯人は捕まっていない。

「街を歩いていておじさんたちが私を見ると“この人あれを見たのかな”などと考えてしまい彼らがニヤニヤしているように感じてしまうんです。それで人混みを歩けなくなりました。勝手に保存されたりしていたらどうしよう、クラスメートが知っていたらどうしようって。これから先出会う人がこの画像を見ていたらどうしよう、って」(ゆかりさん)

母の朋美さんは、ゆかりさんを心療内科に連れて行き、安定剤をもらうことでパニックはおさまった。コロナ自粛と重なったことで外出しなくてすんだこともゆかりさんの心を落ち着かせたという。

「外に出るのが怖かったから自粛は助かりました。自分が見も知らぬ男の人たちから性の対象にされたことが悔しくて怖くてたまりません」

それでも、ゆかりさんは前を見ている。

「弁護士さんに相談しています。必ず犯人を捕まえたいと思っています。弁護士さんが言うには被害者はかなりの数いるようです。ただ、自分が被害者だということも気づいていない人がほとんどだというのです。

だって兄がいなかったら気づかなかったし、もしも友達が見つけたとしても教えてくれるかどうか。陰で言われるだけだったかも。誤解を解くチャンスさえ与えてもらえない。こういう被害があることを多くの女の子に知ってほしいし、お子さんの写真をむやみにアップしているお母さんたちにも注意を促したいです」

ゆかりさんは被害にあってからSNSを絶っていたが、今月からまたアカウントを取得。少しずつSNSの世界を広げつつあるが、自分の顔は「絶対にのせない」と力強く答えた。

●CASE2● 美佳さん(47・仮名)娘の写真をアップしたことで人間不信に

2人目の被害者は千葉県に住む専業主婦の美佳さん。夫と2人の子どもに恵まれ、幸せな日常をインスタグラムにアップしていた。

「正直、(インスタ投稿は)マウンティングのような感覚でした。だから娘の画像を発見したときは誰かにひがまれて嫌がらせされたのかと最初は思って」

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美佳さんは投稿した長女(当時9)の顔写真を加工され、児童ポルノとして使われてしまった。

「そんなこと考えたこともなかったんですが、インスタとかには子どもたちをそういったイヤらしい目的で、見に来ている人たちがいるらしいのです」(美佳さん)

発覚はコメント機能からだった。

「今年の4月、突然フォロワーが増えたんです。コメントも海外からとか、ハートの絵文字とか。子どもたちが可愛いからだとのんきに思っていたら《最低な母親》っていうコメントが来たんです。どういうこと? と思ってそのユーザーにDMでメッセージを送りました」

美佳さんはそのときに送ったメッセージを見せてくれた。

《初めまして。先ほどコメントいただいた最低の母親とはどういうことですか? あなたは誰なんですか?》

その返信で送られてきたのは、長女のフェイクポルノ画像だった。スクール水着を着た長女がアイスクリームを食べながら下腹部をいじっている。

「フリーズしました。頭の中が?だらけで、加工されているという考えにも及びませんでした。娘が誰かに誘拐されて撮影されたのかとかいろいろ頭をよぎりました。でも、思い返してもそんなことは確実にないし、娘の様子も変わったところはありません。

娘はコロナ禍で休校していて家にいたのですが、直感で見せないほうがいいと思いました。今でも自分のその判断だけは正しかったと思っています」

美佳さんはまず返信をくれたユーザーに画像の出どころを聞いた。

「わたしの返信を見て画像がフェイクポルノだと勘づいたようです。丁寧に児童ポルノサイトとフェイクポルノの存在を教えてくれました」

その後、サイトに画像の削除要請を出し警察に被害届を提出した。

「サイトの画像は一応消えましたが、保存されていたり拡散されているのは抑えられない。警察によると、こういうのを作るのは身近な人というよりランダムに子どもの顔を適当に探して集めているのだそうです。だから恨みやそういったことではないと思いますよ、と言われました。

最初はママ友とかからのひがみかと本気で思っていたんです。その発想がもう醜い人間関係ですよね。娘の卑猥な画像が一生さらされると思うと自分を呪いたいです」

美佳さんはインスタグラムだけではなく、フェイスブック、LINEなど、すべてのSNSから子どもの顔を消去した。

「幸せな時間を汚されたような思いと、自分の見栄のために子どもを使ってしまったことがいちばん許せない。自分のことが許せないです」

美佳さんは今も自分を責め続けている。

インターネット犯罪に詳しいジャーナリストの渋井哲也さんは、

「“ディープフェイクポルノ”は2017年、海外の有名女優のポルノ動画がネットに投稿されたことが発端とされています。政治家のイメージを損ねるために動画を加工したり、リベンジポルノとして一般人の偽わいせつ動画がネットに拡散される被害も。

日本では嫌がらせ目的でSNSを徘徊している人、可愛い子の画像を加工して金稼ぎをしている人、出会い系サイトなどのアイコンに使うために探している人、などがいます。発覚するのはまれでほとんどの被害者は自分が被害にあっていることに気づいていません」

自分や自分の大切な人の写真が悪用されていることに気づいたら、私たちはどうすればいいのか。

アディーレ法律事務所の正木裕美弁護士にポイントを聞いた。

「まずは問題の投稿・記事全体、URL全体、投稿年月日時分、印刷日時が表示されるように印刷、スクリーンショット、PDF化をしておく。

任意の削除に応じてもらえず裁判所での仮処分命令の申立てを行って削除を行う場合などに重要な証拠となります」

削除がされない場合はどうしたらいいの?

「サイトの運営者などに対する法的な削除請求が必要です。裁判所に投稿記事削除の仮処分命令の申し立てを行って、裁判所から仮処分命令をもらって、問題の記事の削除を求めていくことになります。通常はここで相手が削除に応じることが多いです」(正木弁護士、以下同)

拡散した第三者を罪に問うこともできるという。

「性的な画像だった場合、リツイート(転載)だけでも『わいせつ物領布等罪』(刑法175条1項、2年以下の懲役もしくは250万円以下の罰金)、『18歳未満の場合、児童ポルノ禁止法違反』になる可能性があります。

また、名誉毀損に該当する悪質な投稿の場合、投稿をリツイートしただけでも名誉毀損罪に問われたり、損害賠償責任を負う可能性があります」

ただ、その画像を私的利用のために保存することを罪に問うのは難しいという。

「現状は難しいです。来年1月以降は、違法にアップロードされた写真だと知りながらダウンロードするのは、私的利用目的でも著作権法違反になる可能性がありますが、刑事罰がありません」(正木弁護士)

先日も元NHKアナウンサーの神田愛花が11日放送の『ワイドナショー』(フジテレビ)でフェイクポルノ被害を告白。NHK時代に「本物かどうかは別として、これがある限り難しい」と大きな番組に出してもらえなかったという。

1度ついたイメージからなかなか脱却できないこの時代、本物か偽物かではなく使われてしまったらもうおしまいなのだ。