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「もっと友達と学びたかった」コロナ禍の2年、卒業する短大生の胸中

在学中にクラスの学生と唯一共同で制作したパネルシアターを見る岡田芽依さん(中央)や短大の指導教員ら=北九州市小倉北区の東筑紫短大で2022年3月7日午後2時44分、青木絵美撮影

新型コロナウイルスの感染がなかなか終息せず、今春卒業を迎える短大生の多くは入学からの2年間、ほとんどがオンライン講義になるなど大きな影響を受けた。感染対策を重ねて資格を取り、卒業を迎えた一方、学生生活は行動制約の中で終わり、胸中には悔しさがにじむ。 「家にいた時間が長かったなと思う」。15日に東筑紫短大(北九州市)を卒業し、春から保育士として働く岡田芽依さん(20)=福岡県行橋市=は短大生活を振り返ってこぼした。小さいころから近所の子どもの面倒を見るのが好きで、習っていたピアノやフラダンスの経験も生かせる保育士になろうと、2019年秋、東筑紫短大の保育学科への進学を決めた。 だが20年に入り、新型コロナの感染が国内で拡大。初めての緊急事態宣言が出された4月、入学式は中止になり、用意していたスーツは着られなかった。最初の対面の講義は5月の連休明け。初めて会った前後の席の同級生5人ほどと写真共有アプリ「インスタグラム」のアカウントを交換した。だが講義は3日ほどでまたオンラインに。当時、短大のある北九州市の新規感染者数が突出して増えたためだ。「まだ顔も覚えきれていなかったけれど、連絡先を交換しておいてよかった。『これからどうなるんだろう』とやりとりしていた」と不安な日々を送った。 保育士養成では演習や実習が欠かせず、短大側も苦慮した。音楽の実技レッスンでは、自宅にピアノがない学生にキーボードを買ってもらうか、短大から貸し出すことにしてオンラインで指導。岡田さんも自宅のピアノの横にスマートフォンを固定して受けた。担当の津山美紀教授は「回線が悪くて音が遅れることもあったが『鍵盤に触らない指導は限界がある』とシステムを構築した」。従来、学生同士で見せ合いながら進める手遊びや絵本読みの演習もオンライン。学生がカメラに向かって実演し、教員がチェックした。 1年生の後半から順次始まった保育所や幼稚園での実習には一層神経を使った。感染対策のため、短大は実習開始2週間前から学生を極力自宅待機とし、アルバイトも自粛させた。その期間の講義はオンラインに。岡田さんは幼稚園教諭2種免許など複数の資格を取得するため、2年生の秋まで計5回の実習があり、対策に伴う自宅待機だけで計2カ月半に及んだ。 ただ、実習に行くと、おもちゃ一つ一つを消毒する作業も感染対策が求められる今だからこそ必要なのだと、より理解が深まった。2歳児を担当した時には怖がらせないよう目線を合わせ「マスクで目元しか見えないからこそ、いつもより笑顔にしようと心がけた」。子どもが懐いてくれた時の喜びはひとしおだった。 学生によっては実習先で感染者が出るなどし、直接子どもとふれ合えなかった。その際は実習先の指導者や短大教員が子ども役になって、声のかけ方や見守り方を学生に実演させる代替の実習・補講を実施。卒業生125人は全員が保育士資格を取得した。 一方、オンラインの活用で思いがけないプラス面もあったという。保育学科長の寺本普見子教授によると「通学がない分、時間を有効に使って課題制作し、仕掛けを広げて物語を披露する『エプロンシアター』や『手袋シアター』で今まで以上に手の込んだ作品が出てきた」という。 岡田さんは4月から地元・行橋市の保育園に勤務する。友達と学食で盛り上がることがほぼなく「もう少し一緒にいたかった」と無念さもにじむ。それでも「課題の情報をやりとりして励まし合い、オンラインでも絆は深められた。大変な時期を乗り越えた友達を大切にしたい」と前を向いた。【青木絵美】 ◇「周りに頼れる関係築いてほしい」 柴田学園大短大部(青森県弘前市)の佐々木典彰教授(保育学・心理学)が2020年12月、青森県内の短大生約50人のストレス状況を調査したところ、ストレスに対して「なるようになれ」などと投げやりな思考の人ほど心身の疲弊感が強かった。一方、情報収集したり人に話を聞いてもらったりする人は充実感が高い傾向がみられたという。 佐々木教授は「学生らはコロナで交流やつながりが満たされにくかったが、周りに甘え、頼る方がストレスは和らぐ。就職後は周囲とそうした関係性を築けるといい」と話す。 21年度の学校基本調査によると、全国の短大在学者数は約10万2200人。半数の5万人ほどがこの春、卒業を迎えるとみられる。

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