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AK-69が語るヒップホップの響かせ方 ラップと歌の二刀流で続けてきた者の強み

AK-69が、2021年6月9日に最新アルバム『The Race』リリースした。本作は、人生のレースを疾走する車=AK-69をテーマにしたアルバム。盟友TOKONA-Xが残した名盤『トウカイXテイオー』収録の「They Want T-X -Intro-」をDJ RYOWがリメイクし、そこにヤングトウカイテイオーこと¥ellow Bucksをフィーチャーした先行トラック「Im the shit」をはじめ、ANARCHY、ちゃんみな、RIEHATA、Bleecker Chrome、SALUが参加した充実作となっている。マイクを握り始めて25年というアニバーサリーイヤーのAK-69の現在に迫った。

ー去年はAKさんの生き様でもあり、自身の本質はライブであると改めて告げたアルバム(『LIVE:live』)をリリースしましたが、昨年はそのライブ自体が行えない社会になりました。

そうなんですよ。『LIVE:live』っていうアルバムを作ったのに、ツアーをやれてないですからね(笑)。でも、去年唯一やった名古屋城ライブがまだ生きているってことを実感しています。

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ーそれだけの手応えと反響があった?

リアルタイムで観れてなかった人たちにもDVDが届いて、みんなの生きる糧になっているってことを凄く感じるんですよね。それはファンのリアルな声とか、空気感で伝わってきますし、結果としてそれが販売数にも出ているんですけど。採算を度外視してでも、自分が届けたいものを形にすることがエンターテイメントの真髄なんだってあのライブで再確認できた。まさに『LIVE:live』だったなと思います。

ー新作の『The Race』が前作『LIVE:live』から10カ月というスパンでリリースされました。制作はどういうところから始まっていきましたか。

ライブが飛んでいる中、みんなが待っていることと言ったらアルバムになると思うし、どうせ出すんだったら6月9日に間に合わせたいと思って。それで強行突破のスケジュールで挑んだんですけど。今回のアルバムはコロナ禍だから音源を作ろうっていう感じもなく、大前提として、ただ自分が作りたいから作った感じのアルバムなんですよね。25年のキャリアの中で、前作から1年切って出すっていうのは異例だし、2カ月という制作期間で作ったのも初めてで、まさに衝動のまま作った作品です。

ー何故そうしたエネルギーが湧いてきたんだと思いますか。

コロナ禍で悲観的になっている人がたくさんいますし、俺らも予定していた47都道府県ツアーでは、少なく見積もっても5000万ぐらいの売上があったはずなので、ビジネスだけで考えたら悲観的になってもおかしくない状況ではあるんですけど。やっぱりこの期間で何をやったかということが物凄く大事だと思うんです。

ーそれが昨年の名古屋城での単独公演を行った配信ライブですね。

ライブハウスツアーが全部飛んだ状態で、ああいう採算度外視のライブをやるっていうのは、たぶん大抵の人が決断できないことだと思うんです。でも、俺たちはエンターテイナーとして使命を感じたんですよね。俺はアイドルでもないし、マスに受ける音楽を追求しているわけでもなくて、魂のメッセージを真髄としてやってきているから。こういう時こそそれをみんなに投げかけることが大事だと思いましたし、そこで得たファンからの信用って結果にはすぐ出てこないものなんですけど、結局はそれが一番大事なんじゃないかと思うんですよね。

ーアーティストとして、今後かけがえのないものとして活きてくると。

急ピッチでアルバムを作ったこともそうですし、批判されるリスクがあってもゲリラライブをやってみる。そうやってヒップホップのおもしろさだったり、どうやったらみんながワクワクすること届けられるのかってことを真剣に話し合って、ビッグアーティストたちが何もできずに止まってる中でも、俺らは細かいジャブを打ち続けてきたんですよね。で、本質的なものしか残らないような時代で、偽物とか商業的なものがことごとく倒れていく中でも、俺らはこうやってやれているってことに自信が持てたのは凄く大きくて。俺がヒップホップのゲームで最前線に立ってから15年ぐらい経つんですけど、コロナ禍だからこそ、積んでるエンジンの違いみたいなものを感じたんです。それで凄く強気になれたというか、コロナ禍でも倒れずオフェンシブな姿勢を崩さなかったことで、改めて格の違いを見せてやろうという気分になりました。

ー前作はしっとりと歌い上げる曲と同時に、スタジアムで聴かせるようなスケール感の大きい楽曲も収録されるなど、凄くバラエティがあった作品だったと思います。それに対し今作は、収録時間も短く、スリリングなラップで貫くようなニュアンスを感じました。作風に関して何か意識したことはありましたか。

マイクを握った時からラップと歌を二刀流でやってきたので、いろいろなトピックの曲を歌えるのが俺の強みではあるんですけど。肌感として日本のヒップホップのリスナーが変わった気がするというか、ヒップホップの純度が高い楽曲でも理解できるようになった感じがあるんですよね。海外ではヒップホップが1番のポップスになった中、日本でも遅れてそうなりつつあるのかって思います。

ーそうした実感が、作品に少なからず影響を与えていったと。

それと前作の「Bussin feat. ¥ellow Bucks」をリリースした時、ストリートシットでも文脈があれば響くんだなって体感を得て、俺のラップに凄く反応している感じがあったんですよね。それもあって今作では俺がラップしたい! っていう衝動が凄くあって、どうせラップでいくんだったら、ゴリゴリヒップホップな感じでいきたいなって思ったんですよね。

ーサウンドでイメージしていたものはありますか。

世界のシーンを見ても、かっこいいサウンドって一周回って更新されていく流れがあって。今だったら50セントとか、あの頃のニューヨークの感じが新しいものとして受け入れられているんですよね。

ーそういう流れからの影響もあった?

ヒップホップって4、5年前の雰囲気を出すと、型落ちしてる感じがするんですけど、10年ぐらい前のものをやると逆に新鮮に感じるというか。ブルックリンのポップ・スモークっていう若いラッパーが、50セントを崇拝していて。彼はその生まれ変わりって言われるくらいあの頃のヒップホップをやって死後に全米でヒットしたんですけど、今回のアルバムではポップ・スモークの流れでドリルを取り入れています。”AKだからこれはやらねえだろ”とか、そういう変なこだわりは全部捨てて、作っていてワクワクするものを大事にしていきました。今までの俺っぽい曲を作ってもつまらないので、予定調和を感じるものを捨てていったというか、一聴したら誰? ってなる感じが楽しかったんですよね。

ー新鮮なものを常に取り入れて、アップデートしていったところがあると。

俺、ラッパーなんで新しもの好きなんですよ。歳食ってくると”あの90年代の感じがかっこいいんだよ”とか、”今のヒップホップはどうなんだ?”みたいな感じになりがちなんですけど、俺は新しいヒップホップめっちゃかっこいい! って思うタイプなので、その感覚を素で投影しただけですね。実は俺って客演でやる時は結構好き放題やっているので、そんな風に良い意味で力の抜けた感じでアルバムを作れたらおもしろいよねっていうのはプロデューサーとも話していました。

ーなるほど。

そこで今回は”レース”というテーマが浮かんでいて、コロナ禍でも一緒に走ってるFlying Bのチームを考えてもレースという例えはもってこいだと思いましたし、そういう気分を前衛的なヒップホップに乗せて表現しようというのが1番のモチベーションでしたね。

ーAKさんはレースにどういうイメージを持っていて、何故今そのテーマがしっくりきたんでしょうか。

たとえばF1ではハミルトンのようなスターのレーサーがいて、みんなが見てるのはメルセデスの車に乗って走るハミルトンの姿ですよね。

ーはい。

でも、F1を実際に見せてもらうと、その裏にはメルセデスのテクノロジーやチームの熱意があって、それをハミルトンが代表して走っているんですよね。そのF1の感じって、俺たちがやってるエンターテイメントに似てるんですよ。看板はAK-69なんですけど、その裏には日頃ファミリーが身を粉にしている努力があったり、俺のメッセージに賛同して、無謀な挑戦に力を貸してくれているスポンサーの想いがあって、そういうものが全て乗っかってAK-69ができているんです。それがあって今の俺は走れているから、”レース”という言葉は俺たちの仕事にぴったりハマるなって思いました。

ーオープニングナンバーにルイス・ハミルトンの名前も出てきますし、勝者のメンタリティみたいなものをアルバムから感じます。

ほんとに素で強気な気持ちで作ったら、こうなったというのはありますね。

ーただ、一方で中盤には「Its not a game」のようなしっとりとしたサウンドで挫折を歌ったような楽曲も入っています。

「Its not a game」は誰もいなくなったサーキットで、物思いに耽っているような情景をテーマにした歌なんですけど。やっぱりレースである以上負けはあるし、これまでスポットが当たっては散っていった人たちを、俺は何人も見送ってきたんですよね。そういう綺麗事だけじゃない景色、キラキラした世界とは違う世界も表現したいと思いました。

ーだから哀愁を感じさせる曲になっているんですね。

凄くリアルな歌だし、この歌があることによって、他の曲の勢いがまた増しているんだと思います。自分だって負ける時があるんですけど、その度に”でも...”って言って何周もしてきて今があるから。俺自身「Its not a game」は気に入っている曲のひとつで、この歌が凄く大事なポイントになったと思います。

ー9曲目の「Next to you feat. Bleecker Chrome」と、10曲目の「Victory Lap feat. SALU」で景色が開かれるような開放感を感じました。

「Next to you feat. Bleecker Chrome」は唯一プライベートな感じが表れている曲というか、夕焼けのドライブチューンみたいな楽曲です。レーサーの休日じゃないですけど、レースを終えて好きな子と一緒にいる時に感じることを書いているんですけど、そういうささやかな幸せって、自分の1番大事なところが充実してないと感じられないことだと思うんです。戦ってる自分に自信があって、初めてプライベートでの安息があるというか。自分は常にそうなので、そこの部分も表現したいと思いました。

AK-69が語るヒップホップの響かせ方 ラップと歌の二刀流で続けてきた者の強み

ー「Victory Lap feat. SALU」は、<越えるのは己ただひとり>というラインや、<傷の数 優しさ強さの意味を知る>というリリックが象徴的です。

”俺がこのゲームの最前線だ”、”積んでるエンジンの格が違うからな”ってこのアルバムで歌っているんですけど、大事なことはそれを誇示することではないんですよね。俺はずっと自分と戦ってきたんです。常に敵は自分自身で、自分に勝ち続けてきた結果「Victory Lap feat. SALU」に書いたようなことを歌えている。

ーなるほど。

これは俺が一貫して言い続けてきたマインドでもありますし、自分に打ち勝つことで得られる喜びを、チームや家族と分かち合う。それが俺の根底にあるものだから、『The Race』ではそこをオチにしたいと思いました。

ーやさしい気持ちにさせるようなトラックも良いですよね。

この曲はプロデューサーでもあり、俺の相棒でもあるDJ RYOWと吟味して作りました。それから歌いたいテーマを伝えた上でSALUに何曲か候補を投げてみて、彼の意見も大事にして選んだのがこの曲のトラックです。

ー作品の中に今お話いただいたストーリーがあるからこそ、1曲目(「Checkered flag」)の<オメーの成功でヒトの人生変えてみな>っていうフレーズに迫力を感じます。

音楽ができていることのありがたみを常日頃感じますし、自分がどれだけ崇高な仕事をしてるかっていう自覚が、今言われたワンフレーズには凄く乗っています。昆虫ですら羽を鳴らしてメスをおびき寄せるし、音楽ってほんとに動物の根源みたいなものじゃないですか。音を奏でることで誰かの勇気や生きる力になるっていうのは、ものすごいことだと思うんです。俺はそういう仕事をやってきたことに凄く誇りを感じるし、責任や使命も感じている。だから25周年を迎えても、これだけ新鮮な気持ちで戦えていて、これからも走ってやるぞって思えているんです。

ーこんなご時世ですが、『The Race』はライブを想定して作ったアルバムであるような感触を受けました。最後に今後のライブについて聞かせていただけますか。

いつもより低いキーでラップしている曲が多いので、実はライブではどうしようかなって気持ちもあるんですけど(笑)。大きい会場ですごい演出をかけたライブを思い浮かべて作ったので、そう感じてもらえるのはうれしいです。ライブに関しては、この『The Race』の世界だけで完結するセットでやりたいと思って作っていましたね。

ー何故?

今回の曲は過去の曲と相見えなくてもいいやって思っています。過去の曲とちゃんとクロスできる曲調って考えると、いつものAKっぽさも入れていかなきゃいけなくなるんですよね。でも、先程も言った通り今回は予定調和のものを必要としていなかったので、割り切って総数32分ぐらいで終わっちゃうアルバムにしようと思っていました。下手したらフェスの持ち時間でもできちゃう時間ですけど、今って3バース目とかはほとんど歌わないんですよ。ヒップホップってすぐ切っちゃうんで、言いたいこと言えちゃったら別に1バースで終わっちゃってもいいやっていう、そういう潔さはありました。

ーなるほど。

既に”あんたたちは頭おかしいの?”って思われるようなライブを思いついちゃっていて、みんなが驚くようなセットを水面下で進めているので楽しみにしていてほしいです。

ーまたやばいものを企画しているんですね。

それだけの労力を今はかけるべきじゃないんじゃない? って考えるのが妥当なんですけど、そうじゃないんですよね。うちの全社会議でも檄を飛ばしたんですけど、やっぱり俺たちがワクワクすることだったり、これやったらやばいねって思うビジョンをそのまま形にする。その労力を惜しまないことこそがエンターテイメントだから。ゲームチェンジする力を持った者っていうのは、みんなが奮い立つぐらいやべえものを作らないと埋もれちゃうと思うんですよ。今回はそれを表現する上ではもってこいの”レース”っていうコンセプトがあったので、やりがいがあるライブになるなって、今からワクワクしています。

<リリース情報>

AK-69

最新アルバム『The Race』

発売日:2021年6月9日(水)

【通常盤(CDのみ)】価格:2970円(税込)

初回盤(CD+DVD):価格:4070円(税込)

=CD収録内容=

1. Checkered flag

2. Pit Road feat. ANARCHY

3. You cant tell me nothing

4. Racin feat. ちゃんみな

5. Its not a game

6. Thirsty feat. RIEHATA

7. PPAP

8. Im the shit feat. ellow Bucks

9. Next to you feat. Bleecker Chrome

10. Victory Lap feat. SALU

=初回盤DVD収録内容=

Im the shit feat. ellow Bucks (MV)

LIVE : live (MV)

B-Boy Stance feat. IO (MV)

もしよければ (MV)

Ha? (MV)

Making Movie ”「Im the shit feat. ellow Bucks」MV”

Making Movie ”Visual Shooting”