09

Oct

ブルーノ・マーズとA・パークが語るシルク・ソニックの絆、ソウルへの愛と執念

シルク・ソニック(Photo by Florent Déchard for Rolling Stone)

ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークによるスーパー・プロジェクト、シルク・ソニックのデビューアルバム『An Evening With Silk Sonic』がついにリリース。二人が奏でる“feel-good”な音楽の裏には、数多くの苦難と深い葛藤があった。深い友情と完璧なスロウバック・ジャムの探求に迫る、米ローリングストーン誌のカバーストーリーを全文翻訳掲載。【画像を見る】シルク・ソニック 撮り下ろし写真 * * *ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークが太陽の日差しを満喫しているのは、レコーディングスタジオの中庭だ。アメリカン・スピリッツに、グッチのモノグラム入りのライターで火をつけ、頭上を覆う木々から舞い降りる鳥たちのやさしい囀ずりを堪能し、すぐそばの壁にオレンジ色の花を咲かせているハイビスカスを愛でる。そこにスタジオ・アシスタントのアレックスが驚いた様子で歩いてきて、このレイドバックした場面を完成させる。「ラムリータスをどうぞ!」彼はそう伝えると、縁に塩がまぶされ、泡立った3つのグラスを置いた。「俺たちはストレスを隠すのが上手い」アンダーソンはそう言って、背もたれに寄りかかると、飲み物を一口飲む。6月も押し迫ったロスアンジェルスで、『An Evening with Silk Sonic』の制作はほとんど終わっていた。このデビューアルバムにその名が含まれている、ブルーノとアンダーソンによるスーパーデュオに息が吹き込まれたのは、5年前のツアー中のことで、友人同士の二人がたくらんだほんの冗談だった。それが、ふざけるどころか本腰を入れ、70年代ソウルの雰囲気満点のバラード「Leave The Door Open」というNo.1ヒットを生み出してしまう。この曲が始まって20秒ほどで、アンダーソンが(ブルーノのアドリブによるバックヴォーカルを従え)甘い喉を聞かせる“ワインをちびちび飲む(ちびちび)ローブ姿で(キメっキメっ)”という歌詞。そこに並んだ言葉が、この曲の訴求力を具体化する。それは贅沢で、ソフトで、ほろ酔い気分で、愛嬌があって、ウインクを投げかけるような適度な馬鹿さ加減から成り立っている。 「この曲は、俺たちの目的を示した公式声明だ」とアンダーソン。「本でいう序章にあたるもので、トーンを示し、サウンドを知らせる。アルバムにはいろんな波が押し寄せるけど、全体的にはこの曲に包まれている」『An Evening with Silk Sonic』は当初、秋のリリースが予定されていたが、バンドの意向で2022年1月に延期された(編注:その後、ブルーノが36歳の誕生日を迎えた10月8日に、同作を今年11月12日にリリースすることを発表)。ブルーノとアンダーソンは、あと何曲か出してみることにした。ブルーノの説明によれば、1曲ずつ小出しにしていき、そのあと、完全なかたちでアルバムを出すという。「binge-watch(まとめて一気見すること)は避けてほしいね」話を聞かせてもらおうという段になると、二人はラムリータスを一気に飲み干し、すっかり勢いづく。「今はすっかり仕上げモードなんだ」とブルーノは言う。「アルバムの骨格はほとんどできているから、大事なのは仕上げの部分、もう少し必要なのは……」彼は的確な言葉を思いつく。「グリース(潤滑油)だ」 「それはつまり、曲をゼロからやり直すということだ!」アンダーソンがそう言うと、ブルーノは笑い、うなずく。「ここにあと3年居続けようか!」と彼は言う。ヒットメイカーとしてのキャリアは10年に及ぶものの、ブルーノといえば、微細すぎてリスナーの大半には判別できない(とにかく認識できない)ような楽曲の細部のやり直し、さらなるやり直しに次ぐやり直しに次ぐやり直しで知られている。「だが、それには及ばない」彼は話を続ける。「その段階は過ぎた。そういう段階もあった。危ない場所に足を踏み入れた瞬間もあった。『Leave The Door Open』を出すことで、自分たちにプレッシャーをかけたんじゃないかな。締め切りは重要だ。どこかの時点で、『これでよし』と言わなければならない。そうしないと、嫌になるまで作業を続ける羽目になる」。それについて彼の考えはしっかりしている。「ただ、そこにも良い面はある。うんざりするまで付き合わざるをえないというのは、つまり、愛情と時間と情熱を捧げたということ。ひどく骨の折れることなんだ」。「Leave The Door Open」について彼はこう付け加える。「あのブリッジのせいでバンドが分解するところだった。でも、それは間違いだと、俺たち全員が気づいたんだ」ある程度の時間をブルーノと一緒に過ごしてみると、それが会話であれ、ブレイクスルーをもたらし12×プラチナムに達した2010年の「Just the Way You Are」から、11×プラチナムのスマッシュヒットとなった2014年の「Uptown Funk」(マーク・ロンソンとの共演)を経て、「Leave The Door Open」に至るヒットカタログに耳を傾けることであれ、彼がまるで技術者のようにポップにアプローチしているのは明らかだ。アンダーソンは彼をこう呼んでいる。「数学教授。彼は楽曲のあらゆる側面について、数学的な部分のすべてを考えている。それはずっと深い。洒落た文句よりも、あるいは、良いドラムよりも、また、自分たちが曲で言っていることや、言おうとしていることや、見せ方や、サビをいかにキメるか、その手のことよりも」アンダーソンは対照的に、自分は「そういうこと以外」のプロセスに関わったと言う。ブルーノ同様、彼はマルチな才能の持ち主だ(歌、ラップ、曲作り、そして、地元カリフォルニア州オックスナードのチャーチ・バンドで10代の頃からドラムを叩き続けてきた)。ブルーノ同様、彼のショウビズ入りは、LAのとあるバーのバンドのパフォーマーとしてで、 オルタナティブ・ラップを扱う会社として定評のあるStones Throwをはじめとするインディ・レーベルから、ジャンルにとらわれず曲を出すに至った。そこまでのすべての活動は、アンダーソンの才能をかぎ取ったドクター・ドレーが2015年のアルバム『Compton』の全編で彼を起用し、すぐさまAftermathと契約させたことで報われた。アンダーソンが言うには、彼の楽曲へのアプローチはブルーノと違って、より流動的で、本能的で、仰視的なところがある。「俺はかなりフリーフォームで、『この場のノリは?』って感じだから、ブルーノとはものすごく親しくなりかったし、彼の仕事に学んだ」そこにブルーノが笑みを浮かべながら割り込む。「俺から盗んだな!」そして二人は大笑いする。ブルーノもアンダーソンも、お気楽な性格ゆえ心が通じあっている。内輪受けのネタにはまってしまったり、互いに相手のショーの演出を組み立てあったり、相手や自分自身のモノマネを熱心にやったり。そのため、雑誌のライターが、たくさんポケットの付いたベストを着てインタビューに現れようものなら、釣り人ネタのジョークのつるべうちで、その後数時間にわたり盛り上がってしまうのは言うまでもない。そうやって二人が心を通じ合わせた成果のひとつがこれだ。ワイングラス片手にローブ姿で豪邸内を歩きまわる内容のシルク・ソニックの曲に耳を傾けても、中庭のテーブルで、ブルーノやアンダーソンとカクテルを囲んでも、どちらにしても、このアルバムが生まれたのが、絶望と混乱に苛まれたパンデミック期間中であるのを、ほとんど忘れてしまうだろう。それは意図的なものだった。「『こいつらの深さたるや水たまり並み』とかって俺が言おうとしたり、言ってみても、 びっくりされないよう願っている」とブルーノ。「意図的というのとは違う。自分たちの目的はこれだと、俺たちが感じてるってだけだ。俺たちに必要なのは、ステージに明かりを灯すこと。敬虔の念についてなら、俺たちの前か後に演る人にお任せして、自分たちの目の前にいる人たちや聴いてくれてる人たちにたっぷりと喜んでもらう。特に、今現在我々が直面しているような時勢にあっては。自分はどうなのかって? 気が滅入るような音楽は聴いてないな。すでに俺たちはおかしな状況下にある。それなのに、あえてそこに深入りするかい? そんなの嫌だ!」彼は首を左右に振る。「俺は逃げ出したいよ!」

 ブルーノ・マーズとA・パークが語るシルク・ソニックの絆、ソウルへの愛と執念